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理想の建墓のために

“運”まかせにしない石材店選び2

酒本幸祐
※霊園ガイドNo.86号より再録

“運”まかせにしない石材店選び2

 

  • 霊園見学中の石材店さんの勧誘が強引だった。「今日は見学だけで」と伝えたが、押し切られてその場で契約をすることになってしまった。できれば解約したいと考えている。(70代・女性)
  • 見学の際に担当になった石材店の、霊園見学後の電話営業がとてもしつこい。 霊園側に相談をしたら、そのことが担当者に聞こえたようで、今度は抗議の電話が掛かってきた。(60代・女性)
契約内容には細心の注意を払って……

 ◎納得できない時には個人情報を残さない

 石材店の営業マンが墓石を売ることに必死になるあまり、強引な勧誘を行う例は以前から報告されています。先ほども述べたように、ひとつの霊園に20~30社もの石材店が参入しているような場合、フリーのお客様の担当になる順番はなかなか回ってきません。そのため、チャンスを逃すまいと、強引な営業に走りがちなのでしょう。

 気をつけなければならないのは、霊園見学の際に受付シートなどに名前を書くと、その時点で担当石材店が決定してしまうということです。

 そのため、見学にあたっては、営業マンの案内時の対応や質問に対する答え、墓石建立後のサポートなどについてしっかり確認し、納得できない時には名前や電話番号といった個人情報は残さないようにしてください。

  • 担当になった石材店の営業マンが、約束の時間を守らないなど、いい加減な人だった。そのため、霊園に石材店の変更を申し出たが「それはできない」と言われた。(60代・男性)
  • 都内の霊園で墓石の購入を検討中だが、石材店は指定業者の中から選ぶように指示された。業者を選ぶ時の参考にするため、相見積もりを取ることを希望したが「相見積もりは認められていない」と断られた。(70代・男性)
  • 見学に行く前に、霊園に連絡して指定業者を教えてほしいと申し入れたが、教えられないという答えだった。(40代・男性)

 ◎石材店から霊園を選ぶ方法もある

 「担当者がいい加減なので変えてほしい」「複数の業者から相見積もりを取りたい」「事前に指定業者を知りたい」。これらのことは、これから高価な買い物をしようという消費者としては当たり前の要求です。例えば家を建てる時、数社のハウスメーカーから見積もりを取って比較検討するのは当然のことでしょう。しかし、お墓ではそれが認められないのです。(公営霊園では複数の石材店を比較することが可能)

 指定石材店制度には、墓石や施工工事のことで何か問題が生じた時、当事者である石材店とともに、その業者を指定した霊園側も巻き込んだ協議ができるといった消費者側のメリットもありますが、上記の事例のような問題点も多いのが実情です。こうしたトラブルにあわないためには、事前に石材店について調べ、意中の石材店を通じて霊園を紹介してもらったり、見学に同行してもらうといった方法があります。石材店についての情報は、本誌に掲載されている広告や、インターネットで知ることができます。

  • 約束の時間に遅刻してくる。言い訳が多い。
  • 特定の石種だけをすすめてくる。
  • 「できますよ」「大丈夫ですよ」と答えるが、内容が具体的ではない。
  • お墓についての知識が豊富ではなく、質問に対して曖昧な回答が多い。
  • お墓や故人への想いが感じられない。
  • 話は聞くが、メモを取らない。
  • あの手この手で契約を急がせる。
  • 「今なら特別に…」など、消費者を煽る発言が目立つ。
  • 石材店からすすめられた墓石用の石材に「新稲田」という名前が付いていたので、国産の稲田石(茨城県産)だと思って契約をした。ところが、後で調べたらそれは中国産石材だった。担当者に抗議すると「これが中国の石だというのは常識ですよ」と言われた。(30代・男性)
  • 国産の石材でお墓を建てる約束で契約をしたが、後日、担当者から必要な分の石材を確保できなかったので中国産石材への変更を認めてほしいと連絡があった。「よく似た石だから大丈夫。見た目も変わらない」と言われたが、納得できない。(年代不詳・女性)
  • 石材店に見積もりを頼んだところ、墓石代・工事代などを合算した、合計金額だけの見積もり書を持ってきた。金額の内訳を知りたいというと、「お墓の価格交渉をするなんて不謹慎だ」と文句を言われてしまった。(年代不詳・男性)
国産石材と中国産石材では、価格に大きな開きがある

 ◎お墓に対する想いをしっかり持った担当者を選ぶ

 これらは霊園に入っている多くの指定業者の中から、質の悪い石材店(営業マン)に当たってしまった方の事例だと思われます。

 こうしたケースでは、一度決められた担当は原則として変更できませんし、担当の石材店では嫌だということになれば、その霊園でお墓を建てることを諦めなければなりません。

 霊園見学の際、石材店にすすめられるまま仮契約や申し込みをしてしまうと、霊園に「私は数ある指定指定業者の中から、この石材店を指名します」と伝えるのと同じことになり、同じ霊園で他の石材店から説明を聞くことができなくなってしまいます。申し込みをする前に、担当の営業マンは誠実な人柄であるか、専門的な知識があるか、お墓に対する想いをしっかりと持っているかを判断することが大切です。特に、身だしなみは重要なチェックポイントです。

 国民生活センターおよび東京都消費生活総合センターによると、お墓に関する相談を寄せる方には、以下のような2つの特徴があるということでした。

  1. お墓の購入に際して、熟考していない。
    お墓はいつまでに建て、いつまでに納骨しなければならないといった決まりはありません。
    「故人が安心して眠れないのでは……」という思いから、お墓の建立を急ぐ方がいらっしゃいますが、焦ってお墓を建てても何も良いことはないのです。
    霊園見学に行くと、見学者のそうした心理につけ込んで、半ば無理矢理申し込みをすすめてくる石材店の営業マンもいます。そうした圧力に押される形で契約をして、後悔する方がとても多いそうです。そこでの契約がどのような意味を持つかをよく考え、少しでも不安がある場合は安易に名前などを記入せず、家族にも相談した上で結論を出すようにしてください。個人情報を残さなければ、同じ霊園で他の石材店の案内を受けても問題はありません。そうして納得がいくまで検討し、よく考えることが重要です。目安としては、葬儀後一年以内にお墓を建て、一周忌法要の時に納骨するといったスケジュールで十分ではないでしょうか。


  2. 「すでにお金を払ってしまった」と言う。
    契約の手付金や工事代金の一部を払い込んでしまった後で不安になり、相談を寄せる方が多くいらっしゃるということです。し かし、一度業者に払ってしまったお金を返還させることは、非常に困難です。「何かおかしい」と感じたら、お金を払う前に相談してください。弊社でも、そうした相談を受け付けるための『仏事相談室』を開設しています。
  • 契約の勧誘には毅然とした態度で対応する。
  • 連絡先などの個人情報は、無闇に教えない。
  • お墓づくりを急がない、焦らない。
  • 「おかしい」と感じたら、お金を払う前に相談!

 たとえ担当者が入金を急かしても、それに乗せられてはいけません。そもそも、支払いを急がせるような石材店は、信用できません。営業マンから契約を迫られたり、代金の支払いを求められたりした際には、曖昧な態度ではなく、毅然とした対応で意思を伝えることが大事です。

インターネットに掲載された画像や情報だけに頼らず、必ず霊園に足を運んで、自分の目で確かめて検討する

 また、相談の中でも消費者側に問題があると思われる事例としては、霊園を見学せず、インターネットに掲載されていた情報と、自宅に取り寄せたパンフレットを見ただけで墓所を契約し、後日、解約を希望しているというものがありました。最近では、ウェブで墓石の注文を受け付けるサイトもありますが(一体どれだけの人がこの方法でお墓を依頼するのかは甚だ疑問です)、現地を見ることもしないでお墓を契約するなどは、とんでもないことです。

 霊園へ実際に足を運び、自分の目で確かめなければ、周辺の状況や環境などが分かりません。お参りの時のアクセスはどうなのか、道路は混雑するのかといった情報も、訪問してみなければ分からないでしょう。お墓は一度購入したら、なかなか買い換えることはできません。お墓さがしにあたっては、面倒だからといって横着をせず、いくつかの霊園を見学した上で、墓石そのもののことだけではなく、石材店の実績や担当者の人柄なども含め、じっくり検討するようにしてください。

 「クーリングオフ」とは、一定期間内であれば、無条件で申し込みの撤回または解除ができる法制度のことです。(その際、違約金などを請求されることはありません)

通知書例/ハガキのコピーと受領証は大切に保管

 これは、不意打ち的な勧誘で、冷静に判断できないまま契約をしてしまいがちな販売方法に対して、消費者が頭を冷やし、再考する機会を与えるために導入された制度で、霊園における墓所の契約に対しても、有効な場合があります。

 もし、お墓の契約をした後で解約したいと考えている時は、クーリングオフの利用をおすすめします。(※墓石の場合、クーリングオフできるのは、契約書の受領から8日間です)

 クーリングオフの方法ですが、通知は必ず書面で行ないます。ハガキなどに必要な項目を記入し、控えとして両面のコピーを取った後に、「特定記録郵便」または「簡易書留」など、記録の残る方法で石材店宛てに送付してください。通知に必要な項目については、国民生活センターのホームページで確認できます。建墓ローンなどのクレジット契約をしている場合は、クレジット会社にも同時に通知します。ハガキのコピーと受領証は大切に保管してください。

 なお、クーリングオフは訪問販売、電話販売、マルチ商法などを想定して作られた制度なので、自ら店舗に出向いて契約をした時には適用されません。ただし、電話勧誘によって有利な条件を告げられ呼び出された場合等は訪問販売と同様と見なされ、クーリングオフの対象となります。

 さらに、業者が「クーリングオフはできない」と虚偽の説明をしたり、脅かしたりしてクーリングオフができなかった場合には、クーリングオフ妨害があったと見なされ、所定の期間を過ぎても、クーリングオフができます。

  • 霊園見学へ行き、そこで担当になった石材店に勧誘されて「墓」の契約をした。
  • 電話や招待状で有利な条件を告げられて呼び出され、石材店の営業所や霊園を訪ねて「墓」の契約をした。
  • 電話や招待状の勧誘がないまま石材店の営業所を訪ねて「墓」の契約をした。
※クーリングオフが適用される期間
→申込書面または契約書面のいずれか早い方を受け取った日から8日間。
    ただし、「クーリングオフ妨害」があった時は、所定の期間を過ぎてもクーリングオフができる。

 ・良い建墓は良い石材店選びが重要

 ここまで読んでいただければお分かりの通り、良い建墓を実現するためには、良い石材店を選ぶことがたいへん重要です。お墓を建てる時には、どうしても費用のことが気になると思いますが、石材店に依頼するのは墓石の施工工事だけというわけではありません。お墓を建てた後、お墓を長く良い状態で維持していくためにはメンテナンスが欠かせません。また、回忌法要やお寺との付き合い方まで、墓石建立後も何かとアドバイスを受ける必要があります。最近では石材店の数が増え、中には建てた後のアフターケアをしない無責任な石材店もあるようです。埼玉県の霊園で話を聞いたある石材店の社長は、記者に対して、「ウチはお墓を建てた後は、施主とは連絡を取りませんよ」と、はっきり口にしていました。こうした姿勢の石材店では、信頼関係を築くことは難しいでしょう。

 では、信頼関係を築くことのできる、良い石材店の条件とは、どんなものなのでしょうか。

 すでに述べたように、石材店の仕事とは「お墓を建てるまで」ではありません。お墓を建立した後も、後世までお付き合いが続いていくものです。そのため、石材店には何より永続性が求められます。

 永続性のある石材店というのは、長年にわたる信用と実績のある企業のことです。さらに、長い間墓石事業に従事し、数多くの建墓実績がある石材店は、信頼できると言えるでしょう。長くその地域に定着している石材店は、それだけ施主の信用に見合うだけの仕事をしてきたということだからです。お墓は代々継承されていくものですから、施主の信用を得ているということは、石材店にとって最も大切なことです。

 信頼できる石材店を選ぶことは、満足できる建墓のための「はじめの一歩」です。

  • 長年の実績がある
    長年の実績は、施主から信頼を得ていることの証拠です。
  • よく話を聞き、適切なアドバイスをしてくれる
    施主の考えや希望に丁寧に対処してくれなければ、満足できるお墓は出来上がりません。良好な関係を築くのも難しくなります。
  • お墓について詳しい知識を有している
    石材の特徴や墓石の形、加工、宗教的なことに専門的な知識があれば、安心して相談することができます。
  • 見積もりが明確である
    価格が不透明な石材店は信頼できません。費用の内訳が明示され、説明が分かりやすい店を選びましょう。
  • 正式な契約書を交わす
    納期はいつか、どんな仕上がりになるかなど、工事に入る際にはしっかりとした契約書を取り交わしましょう。
  • アフターケアがしっかりしている
    アフターサービスの内容や度合いは重要な要素です。しっかりと確認しましょう。

 

 ・『誰と』お墓を建てるのか

 石材店とは主に墓石などを加工・販売する業者です。霊園で待機する石材店の営業スタッフは、お客様に霊園や墓石について説明をし、契約に結びつけるために努力します。しかし、石材店の仕事とは、ただ墓石を売ってお墓を建てることではありません。

 大切なご家族を亡くされたり、近い時期に亡くなることが分かっていたりといった、悲しい想いを持った人々の心に寄り添い、お墓というものを通して、みなさまがまた力強く歩き出すためのお手伝いをする尊い仕事なのです。

 取材で実際に建墓を経験された方々にお話を伺う中で「石材店が話を聞いてくれなかった」と訴える方もいらっしゃいました。

 病気でご主人を亡くされ、いくつもの霊園を見学した後に神奈川県藤沢市の霊園にお墓を建てたという女性は、取材で次のように話してくれました。

 「初めて訪れた霊園で案内をしてくれた石材店さんは、費用のことや石のことばかり話して、こちらの話を聞いてくれないんです。わたしは本当はお墓なんて建てたくないんですよ。主人が元気でいてくれたら、お墓なんて必要ないんですから。でも、その人にはそんな気持ちが分かってもらえなかったみたいで……」

 読者のみなさまの中にも彼女のように、辛い気持ちを抱えてお墓さがしをされている方がいらっしゃるかもしれません。そんな時は決して焦らずに、ゆっくりと時間を掛けて、信頼できる石材店(もしくは、信頼できる担当者)を探すことをおすすめします。

 お墓は、建てたらそれで終わりというわけではなく、子や孫に受け継がれていく特別な家族のモニュメントです。だから「どこに」「どんな石で」建てるかということよりも、「誰と(その石材店と)」建てるかが最も大切なことなのです。お墓づくりを安心して任せることができて、長く付き合っていける、良い石材店(良い担当者)を選んでください。それができれば、みなさまの考える理想の建墓に、大きく近づくことになります。

 ・“お墓さがし”は、“石材店さがし”

 人生の最大の買い物は「家」であると言われれいます。しかし、日本の住宅が約30年で建替年数を迎えるのに対して、終の棲家である「墓」は、それよりもずっと長い間、まいなさまの心の支えとして、また、私たちがこの世に生きた証として存在し続けます。だから、誰しも良いお墓を建てたいと願うのです。

 では、良いお墓とは、一体どんなお墓でしょうか。墓所面積の大きなお墓や、高価な石材で建てられたお墓のことでしょうか。

 たしかに、それらも良いお墓には違いないかもしれません。しかし、施主の気持ちを理解して、心により祖てくれる誠実な担当者とともに力を合わせてつくり上げたお墓が、本当に良いお墓だと言いことができるのではないでしょうか。

 お墓さがしは、同時に石材店さがしでもあります。読者のみなさまが、良い石材店の誠実な担当者とともに力を合わせ、最高のお墓づくりを実現されることを願ってやみません。

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