> お墓の承継が難しい時代
霊園・永代供養墓・堂内陵墓の現在

お墓の承継が難しい時代

酒本幸祐
※霊園ガイドNo.81号より再録 ※価格などの情報は執筆時のもので現在とは異なる可能性があります。

お墓の承継が難しい時代

-霊園・永代供養墓・堂内陵墓の現在-イメージ写真

 家族が亡くなった時、かつては“家”の墓石(先祖代々の墓)を建立し、それを子や孫が代々継いでいくことが当たり前とされていました。

 しかし、少子化・核家族化が進行し、宗教的なつながりが薄れている現代社会では、墓の承継が難しくなっています。

 諸外国ではお墓は一人ずつ、あるいは夫婦二人で入るのが一般的です。

 それに対して、日本のお墓は継承していくことを前提として建てられます。

 そのため、自分達のお墓がほしいと思っても、後継ぎがいないからという理由で、お墓の建立をあきらめる方も多いようです。

 また、近年は承継者を持たない方の建墓以外の供養の仕方として、合祀墓である永代供養墓や、自動搬送式の納骨堂(堂内陵墓)も注目を集めています。

 今回の特集では、後継ぎの問題で建墓をためらっている方が自分のお墓を持つための方法と、永代供養墓・堂内陵墓について取り上げます。

 ・少なくなる「先祖代々の墓」と、増加する「無縁墓」

 去る3月27日、NHKのニュースなどを中心に、関東地方の「直葬」の割合が2割を超えたという話題が広く伝えられました。直葬とは火葬だけで済ます葬儀のことで、僧侶を呼ばないケースも多いようです。葬儀や墓の情報サービス会社が全国の葬祭業者を対象にアンケート調査を実施したところ、関東地方では葬儀全体の22.3%が直葬で行われているという結果が出ました。同じく、セレモニーを少人数で行なう「家族葬」と呼ばれる葬儀の割合もここ数年で大きく伸びているそうです。

 かつての葬儀といえば、大勢の弔問客とともに故人を弔うのが一般的でした。しかし、長引く不況、親族や地域社会の関係の希薄化、信仰心の薄まりなどで、最近は直葬や家族葬などの「小さな葬儀」が主流になりつつあるのです。

 お墓を取り巻く状況にも、これと似たことが起こっています。

 >ひと昔前であれば、家族の誰かが亡くなったら「先祖代々の墓」に遺骨を納めるか、新たな墓石を建てて、そこへ納骨をするのが普通のことでした。そうして建てられた「家の墓」は、子や孫が代々受け継ぎ、守っていくのが当然のこととされていました。

 ところが、少子化・核家族化が進行する昨今の社会状況では、そうしたお墓の承継が困難になっています。“霊園ブーム”と言われた昭和40年代から50年代前半に誕生した首都圏郊外の大型霊園では、「お墓の無縁化」の問題が顕在化しています。無縁墓の増加により管理料の未収も発生しています。冒頭にも書いた通り、日本のお墓は承継を前提として建てられますが、そのようなお墓に対する従来の考え方だけでは対応できない事例も増えてきているのです。

※出典:第一生命保険株式会社 『お墓のゆくえ -継承問題と新しいお墓のあり方-』

 ・東京都町田市在住Kさんの場合

 お墓の承継が以前と比べて困難になっているという問題を取材する中で、都内に本社を持つ石材店の担当者が、あるお客様の事例を聞かせてくれました。それは町田市のKさんとおっしゃる70代のご夫婦で、自分達には後継ぎがいないが、どうしても二人のお墓を建立したいという切実な願いを持ったお客様だということです。

 Kさんのお話とは、以下のようなものでした。

 『先日、二人で霊園見学へ行きましたが、承継者がいないとお墓を建てることは難しいと言われました。無縁になるのが分かっていて、お墓の建立を許可することはできない、と……。永代供養墓に入ることを勧められましたが、合同のお墓はどうしても嫌なんです。

 どちらかが死んだ後は、残された方が生きている間だけでも、ちゃんとお墓をお参りして、手を合わせ、会いにいく場所がほしい---』

 この石材店では、期限付き墓所と呼ばれる商品を展開していたため、そちらの購入を勧めたそうですが、有期限のものではない普通のお墓を建てたいというKさんの意思は固く、現在はご夫婦の希望に沿うべく、お墓の建立について前向きに話を進めているとのことです。(Kさんがどのような方法でお墓を建てたかについては、後の章で述べます)

 これまでは、単身者である、子供がいない、子供がいても娘だけで後を継ぐ者がいない、といった事情を持つ方々は、永代供養墓を選択するのが普通でした。寺院や霊園側もそうしたニーズに応えるかたちで、積極的に永代供養墓の開設を押し進めたため、この十数年で永代供養墓の数は大変な伸びを見せています。弊社発行の永代供養墓のガイドブック『永代供養墓の本』は、発刊以来改訂を重ねています。平成11年発行の第1版に収録された永代供養墓は140件余りでしたが、昨年末発行の最新版では657件に増えています。未掲載のものを含めれば、その数はさらに多くなるでしょう。

 多くの永代供養墓では一定期間(10年間・33年間など)は骨壷のまま安置し、期間が経過したら遺骨を骨壷から出して合祀スペースへ移すという方法が採り入れられています。費用は供養方法によって数万円から100万円を超えるものまで、かなりの幅がありますが、平均的な金額は20~30万円といったところです。通常のお墓を建立することに比べて安価でもあるため、注目を集めるようになりました。

 しかし、永代供養墓は基本的に合祀墓であるため、自分のお墓であるという感覚は得られません。比叡山延暦寺大霊園(滋賀県大津市)のように、個別の墓碑を建立するスタイルの永代供養墓もありますが、そうしたものはごく一部に過ぎません。また、骨壷のまま安置される期間が経過した後で合祀となるため、故人(もしくは自身)の遺骨が他の人のものと一緒になってしまうことに、心理的な抵抗を覚える方もいます。

 永代供養墓は現代の社会に必要なものとして受け入れられましたが、その存在が広く認知され、数が増えるとともに、そのシステムに満足できない人々の問題も顕著になったと言えるでしょう。霊園や石材店の担当者から、さまざまな事情を抱えたお墓を求める人々の話を聞くと、後継ぎがいなくても普通のお墓の建立を望む建墓希望者が少なくないことが分かります。

 では、お墓の承継が前提とされる我が国では、後継ぎがいないとお墓を建立することはできないのかというと、決してそうとは限りません。

 Kさんのような「お墓が無縁になることが見えているケース」に対応するため、首都圏の霊園や石材店の中には、いろいろな方法で建墓の希望に応えてくれるところが、以下の表のように多く存在します。

  • ●西多摩霊園(東京都あきる野市)『墓所特別祭祀承継制度』
    • 墓石を建立し、承継者が絶えた後、霊園がお墓を13年間管理し、その後園内の供養塔「やすらぎの塔」へ合祀する。
    • 費用…80万円(13年間の管理費および墓石撤去費用含む)
  • ●大多摩霊園(東京都青梅市)『永代管理墓地』
    • 定められた区画に墓石を建立し、50年分の管理費を前納することで、永代にわたり霊園が墓所の管理を行なう。
    • 費用…1,287,500円より(1.0m2の場合。永代使用料、50年分の管理費および墓石・外柵の工事代金含む)
  • ●合掌の郷 もちのき霊園(神奈川県横浜市)『天 寿』※期限付きレンタル墓
    • 5年間の期限付きで使用できる壁型墓地。
    • 費用…236,500円より
          (別途、保証金70,000円。管理費10,000円/年。保証金は墓所返還時に全額払い戻される
    • 1年間延長使用料41,000円(墓所使用料、墓石使用料として)
  • ●町田いずみ浄苑フォレストパーク(東京都町田市)『17年墓(33年墓)+永代供養システム』
    • 墓石を建立し、17年間または33年間の供養期間を選択。供養期間終了後、園内の永代供養墓へ合祀。
    • 年限を迎えた時点で建墓者が存命の場合は、延長可能。
    • 費用…1,051,500円(0.6m2の場合。永代使用料+建墓一式費用+17年間(33年間)管理料および墓石撤去費用を含む)
  • ●町田いずみ浄苑フォレストパーク(東京都町田市)『17年墓(33年墓)+永代供養システム』
    • 墓石を建立し、17年間または33年間の供養期間を選択。供養期間終了後、園内の永代供養墓へ合祀。
    • 年限を迎えた時点で建墓者が存命の場合は、延長可能。
    • 費用…1,051,500円(0.6m2の場合。永代使用料+建墓一式費用+17年間(33年間)管理料および墓石撤去費用を含む)
  • ●冨士霊園(静岡県駿東郡)『特別祭祀承継制度』
    • 墓石を建立し、承継者が絶えた後、霊園がお墓を15年間管理し、その後園内慰霊堂へ合祀する。
    • 費用…60万円(15年間の管理費および墓石撤去費用含む)
  • ●株式会社いせや『ふれあいパーク』
    • 同社が管理運営する「ふれあいパーク」で通常通り墓石を建立し、
    • 希望年数(30年間など)の管理費と墓石撤去費用を納めれば、年限を迎えた時点で霊園側が責任を持って墓石を撤去し、
    • 遺骨は園内の合祀墓へ合祀する。
    • 年限を迎えた時点で建立者が存命の場合は、延長可能。
    • 費用…希望年数分の管理費+墓石撤去費用
  • ●やすらぎパーク八千代(千葉県八千代市)
  • ●第二茂原霊苑(千葉県茂原市)『ニューシステム墓地』
    • 1.5m2の墓所に設置された地上型納骨棺の上部に、オルガン型の個別の墓碑を建立。
    • 希望年数まで霊園が管理し、その後「天昇の碑」に合祀。
    • 地上型納骨棺は共用のため、墓石撤去費用は不要
    • 費用…125.3万円(10年間使用の場合)
  • ●八千代悠久の郷霊園(千葉県八千代市)『ひかりの丘』※永代共有墓
    • 園内の永代共有墓「ひかりの丘」に骨壷を安置し、
    • 「ひかりの丘」で13年間または33年間骨壷を安置した後、合祀する。
    • 費用…18万円(13年間保管)、30万円(33年間保管)。

 無縁墓はお参りする人がいなくなりお墓が荒れるだけではなく、管理費の未収が発生し、霊園の管理に支障をきたし、改葬の際に墓所の撤去費用が発生することが問題です。27ページに紹介した制度は、管理費や墓石撤去費用の前納などによって、そうした問題の解決を図っています。承継が途絶えた後の墓所の管理を霊園に依頼する場合、建墓費用に加えて一定期間の年数分の管理費と改葬の費用が掛かりますが、その後の安心を考えれば納得できるはずです。

「期限付き墓」と「永代供養システム」をアピールする霊園チラシ

 千葉県船橋市のある霊園では、霊園が定めた期間分の管理費を納めれば、お墓を改装せずに墓石のまま霊園が永代に管理するという制度を採り入れていましたが、契約者数が予定の数に達したため、現在は行なっていないということでした。記者が全国の霊園を取材した中では、大阪府大東市に同じような「永代供養システム」を採り入れた霊園が存在します。その霊園では墓所の広さに応じて定められた金額を支払うと、目印としてお墓に小さな金色のプレートが取り付けられ、承継者が途絶えた後も墓石を残したまま永代にわたり管理されます。秋のお彼岸には、僧侶による墓前供養も執り行われます。

 先ほどのKさんの場合、町田市内の霊園でお墓の建立を進めるとともに、ご夫婦で互助会に入会して改葬の際に必要となる費用を積み立てながら、夫婦どちらかに万一のことがあった際には、残る一方が何年分かの管理費を支払って、死後のお墓の管理を霊園に任せることで、自分達のお墓が建てられる見込みが立ったとのことでした。

 ・費用が気になるなら「永代供養墓」

 全国の石材店を対象にしたアンケート調査によると、平成24年の墓石の平均購入価格は162万円。関東の1都3県(東京・千葉・埼玉・神奈川)では、164.4万円。もちろん、建墓費用は墓所の広さやどのようなお墓を建てるかによって変わりますが、承継が絶えた後のお墓の管理を霊園に依頼するのであれば、それに必要な金額をあわせて納めることになります。

 後継ぎがいないことに加え、経済的な面から墓石の建立をためらっている方にとっては、それらの費用を負担することは楽ではないはずです。そうした事情を持った方や、子供がいないのに自分のお墓を建てるのはもったいない、無駄なお金は掛けたくないという考えをお持ちの方であれば、やはり永代供養墓を検討するのが良いでしょう。

 永代供養墓とは、お墓の承継者がいなくても、寺院や霊園などが責任を持って管理・供養を行なうお墓です。現代社会に必要な新しいお墓の形態として注目され始めたのは今から20年ほど前からのことで、寺院において、あるいは寺院を経営主体とする霊園において、永代供養墓の開設が進み、急速に浸透してきました。

 永代供養墓の大半は納骨堂内のスペースを共同で使用する形態のもので、そうした墓所は公営霊園でも開設されてきましたが、主に寺院によって開設されてきたため、永代供養墓という名称が定着してきました。合葬式墓所、永代合同墓、永代合祀墓、永代供養塔など、さまざまな名称で呼ばれることもあります。

 初期の永代供養墓には、単に遺骨を収蔵するだけの無縁塔と区別が付かないものや、見た目が粗末で故人の供養を安心して託すには不安を感じるものもありました。管理・供養の制度も確立されていなかったようです。しかし、永代供養墓が注目されるにつれ、年々質の高い形式のものが建立されるようになってきました。供養の内容においても、その期間や方法、遺骨の 納骨の仕方など、使用者が納得できるシステムが徐々に定着してきました。永代供養墓が社会に認知されるとともに、ハード・ソフトの両面が充実してきたと言えます。

 先に述べたように、永代供養墓の平均的な費用は遺骨1体につき20~30万円。夫婦二人では30~60万円といったところです。最初に一式料金を支払えば、基本的にそれ以外の管理費や寄付金は一切掛かりません。遺骨は10年間・33年間などの定められた期間は骨壷のまま安置され、その後は合祀となります。

 ただ、ひと口に永代供養墓といっても、現在はさまざまな形態があります。納骨施設の中が個別のスペースに区切られていて、それぞれの名前を記した銘板や石碑を掲げる「集合墓タイプ」やロッカー型のものなどです。都立小平霊園に昨年完成した「樹林墓地」のようなものから樹木葬のような自然葬墓地も永代供養墓のひとつです。

 ほとんどの永代供養墓は生前契約が可能なので、誰にも迷惑を掛けずに自身の始末をつけたいとお考えの方は、ご自分で見学・相談をした後、納得の上で契約をすることをおすすめします。

 永代供養墓をさがす時は、費用面だけではなく、最終的な供養方法などを事前によく確認することが必要です。例えば、自然葬スタイルを採り入れた小平霊園の永代供養墓「樹林墓地」では、樹木の下に埋め込まれた容器の中に約500体の粉骨(遺骨をパウダー状にしたもの)を埋葬するのですが、納骨は霊園の職員がまとめて行なうため、遺族は納骨の立ち会いができません。さらに、埋葬後は故人の名前を記した銘板なども設置されません。そうしたことに抵抗を覚える方は、そのようなシステムの墓地を選ぶべきではないでしょう。遺族があとで後悔するようなことになっては、故人も浮かばれません。

 弊社では書籍の発行以外に、永代供養墓の検索サイト 『全国永代供養墓WEB』を運営しています。 日本全国の永代供養墓の情報を網羅した大変便利なサイトなので、お役立てください。