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理想の建墓のために

“運”まかせにしない石材店選び

酒本幸祐
※霊園ガイドNo.86号より再録 ※価格などの情報は執筆時のもので現在とは異なる可能性があります。

“運”まかせにしない石材店選び

 フリーで霊園を訪れた時、良い石材店に出会えるかどうかは“運”次第だということを、みなさんはご存知でしょうか。

 満足できる建墓を実現するためには、良い石材店との出会いがたいへん重要です。 しかし、お墓さがしのために霊園を訪れると、そこでは順番で決められた「当番」の石材店が、あなたの担当になります。

 その中には、安心してお墓づくりを任せられる実績ある石材店もありますが、他業種から転入してきたばかりのにわか石材店や、安易に開業した石材店も……。

 今回の特集では、建墓における石材店選びの重要性と、担当者との間に起きたトラブルの実例、そして、お墓づくりのパートナーである石材店の仕事について取り上げます。

伊達冠石で建てられた墓石

 「伊達冠石を知らない営業マンがいたんですよ。あれには驚きました」
 そう話すのは、都内に本社のある某石材店の社員Aさん。以前、Aさんがとある霊園の待機所にいた時、隣のテーブルにいた他社の営業マンが、お客様の質問に対して、

 「そんな石はありません」

 と、答えるのを目撃したそうです。

 「そのお客様は宮城県出身の男性の方だったのですが、故郷の石でお墓を建てたいというご希望をお持ちでした。それを……」

 “伊達冠(だてかんむり)”とは、宮城県丸森町で産出される石材で、別名「泥冠(どろかぶり)」とも呼ばれています。玉石状で表面は泥にまみれたようですが、石肌は磨くと黒い光沢を帯び、その独特の風合いが人気で、和型墓石の石塔や記念碑として広く使用されています。

 石材店の社員であれば、当然知っておかなければならない国産石材です。

 「仕方がないので、私が資料を出してご説明しました。他社のお客様でしたが、あのままでは霊園の評判を落とすことにもなりまねませんから……」

 後で聞いたところ、その営業マンは他業種から墓石業界に転職してきたばかりの契約社員でした。社内で簡単な研修を受け、入社3日目から現場に出るよう指示されていたそうです。墓石用の石材については、その会社でよく使う4種ほどの中国産石材について教えられただけ……。この石材店は、お墓や石材について十分な知識を持たないスタッフを、先輩社員の補佐もないまま「現地案内係」として霊園に派遣していたのです。Aさんは言います。

 「さすがに、ここまでひどい事例は珍しいですが、他の霊園でも似たような話はあると思いますよ」

 全国で葬儀・お墓に関する勉強会や相談会を開催している、一般社団法人・日本エンディングサポート協会の佐々木悦子理事長は、次のように話します。

 「霊園を見学した際、石材店の営業担当者にお墓について質問をしても、詳しく答えてもらえなかったと訴える相談者の方は多いですね。墓所使用料(永代使用料)のことやお墓の値段、おすすめの石についてはよく説明してくれるけど、その他の質問にはすぐに答えられない営業マンは少なくないようです」

 もちろん、霊園にはお墓について豊富な知識を持ち、経験も積んだスタッフもいますが、その一方でお墓のことをよく知らない営業マンが少なからず存在し、そうした人が担当となることで、良いお墓を建てたいと願う施主を十分にサポートできない状況が生まれている……。

 では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。

「待機所」

 霊園を見学された経験のある方ならご存知の通り、霊園の入口や駐車場の片隅には、大抵、石材店のスタッフが常駐するための「待機所」が設置されています。 待機所はプレハブ建築の場合が多いのですが、日除け用のパイプテントの下に長机と椅子を置いただけという、簡素なものもあります。

 待機所には常に数人の営業担当者が待機しており、見学に来たお客様を順番に案内します。

 読者のみなさまの中には、霊園の敷地に立ち入るやいなや「ご見学ですか?」「チラシはお持ちですか?」と声を掛けられて、驚いた経験があるという方も多いのではないでしょうか。 そうした時、見学者側が石材店を指名するか、特定の業者のチラシ等を持参して行かなかった場合、声を掛けてきた営業マンの石材店が自動的に見学者の担当石材店となります。

 この担当石材店の決定に至る過程では、消費者の意思は斟酌されません。また、後日、消費者側が業者の変更を希望しても、原則として認められることはありません。 これは「指定石材店制度」と呼ばれる、石材店による墓所販売のためのシステムで、ほぼ全ての民営霊園(※)において、こうした制度が設けられています。ひとつの霊園で、数社から二十数社もの石材店が指定されていることもあります。 (※「民営霊園」とは、「公営霊園」「寺院墓地」以外の墓地の形態で、多くは宗教法人によって管理運営されている。公益法人が経営主体となっている霊園もある)

 どうしてこのような消費者不在とも言うべき制度が採用されているのかというと、それは霊園の開発に多大な資金が掛かることに起因しています。 霊園の開発にあたり、資金や管理運営のノウハウの提供といったかたちで霊園の経営主体に協力した石材店のみが、その霊園で墓石を販売する権利を得ることができるからです。簡単に言うと、霊園の開発資金を出資した業者だけが、その霊園で墓所の販売権利を得るということです。

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 石材店はお墓を売り、墓石を建立することによって売り上げを伸ばし、利益を上げています。 お墓を建てるためには、そのための土地が必要で、それは墓地以外にあり得ません。つまり、石材店としてはお墓を売る前に、まず、お墓を建てるための地面を用意しなければならず、霊園の開発に協力することによって、その墓地で「商売に必要な用地」を確保するわけです。

 何かを販売することで利益を得る企業が、より売り上げを伸ばそうとした場合、それに見合うだけの売りものを持っていなければなりません。そのため、可能な限り多くの霊園開発に参加したいと考えている業者もあります。

 「ウチはできれば県内にできる全部の霊園に入りたいと思っているんです。今はお墓の購入価格の単価が下がっています。だから、とにかく数を売るようにしないと——」(首都圏のある石材店の代表の話)

 しかし、そうして数多くの霊園に参入した場合、待機所に営業スタッフを配置するには、それだけ多くの人員が必要になります。記者が話を聞いたある石材店は、本社のある地元の県だけで約300の霊園販売を手掛けているということでした(寺院墓地を含む)。 その他にも、周辺の都県でそれぞれ約200の霊園に参入しています。この会社の従業員の半分以上は、現地待機のための契約社員と、テレフォンアポインター(電話営業のためのスタッフ)のパートさんであるということです。

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 「霊園ご案内のためのスタッフの報酬は、だいたい日給8,000円か8,500円。その他に契約が成立した時の報奨金が付きます。 コストを抑えるため、50歳から65歳くらいまでの“シルバーさん”が中心です」(同)

 現地待機の人員を確保するためのこうした手法は、実際に多くの石材店で採用されています。会社によって条件はさまざまで、報酬をもう少し手厚くして「50歳くらいまで」と、壮年のスタッフを募集していることころもあります。 その中には「当社の営業スタッフは100%が中途入社」と、話す石材店もありました。
ここで理解していただきたいのは、全ての石材店がこうした正規の社員ではないスタッフにお客様の対応を任せるような方法を採っているわけではないということです。 長年の歴史と実績を持ち、地域ごとに支店を構え、社員教育もしっかりと行なう大手の石材店では、このようなことはありません。 注意しなければいけないのは、指定石材店制度がある霊園では、しっかりと教育を受けた高い能力を持つ営業マンと、そうではない人が混在している点です。 それらのスタッフは、決められた順番に従って均等に見学者の担当となります。一度担当石材店が決まってしまえば、まず変更は認められません。そして、それぞれの石材店の力量・キャリア・規模・実績にはバラつきがあることは、言うまでもないでしょう。

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 では、石材店選びを運まかせにしないためには、どうしたら良いのでしょうか。いくつか方法がありますが、ひとつは事前に霊園の指定業者を調べ、どの石材店が良いかを決めておくことです。 霊園を訪問した時に希望の石材店がある旨を伝えれば、他の業者が担当になることはありません。記者が取材した方の中に、霊園見学の際に、必ず都内に本社を構える大手石材店の社名入り封筒を持参するという男性がいらっしゃいました。

 つまり、何も知らずに霊園見学に行った人が良い石材店(または、良い担当者)に出会うかどうかは“運”次第であるという点が、お墓さがしをする上で、大きな問題となっているのです。

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 では、石材店選びを運まかせにしないためには、どうしたら良いのでしょうか。いくつか方法がありますが、ひとつは事前に霊園の指定業者を調べ、どの石材店が良いかを決めておくことです。 霊園を訪問した時に希望の石材店がある旨を伝えれば、他の業者が担当になることはありません。記者が取材した方の中に、霊園見学の際に、必ず都内に本社を構える大手石材店の社名入り封筒を持参するという男性がいらっしゃいました。

 「これを見せると、ほかの石材店は寄って来ないんだよ」

 とおっしゃって笑っておられましたが、これもひとつの方法かもしれません。

 もし、意中の石材店があるのならば、石材店の店舗を訪問し、そこを通して霊園を紹介してもらうのも有効なやり方です。実際に店舗に足を運ぶことで、石材店の雰囲気や社員の人柄などを知ることができます。 建墓技術は確かか、仕事に自信を持っているか、石材やお墓についての知識は深いかなど、話している内に伝わってくることも多いでしょう。

 ぜひ、後々まで付き合っていける、頼りになる石材店をさがしてください。

 独立行政法人国民生活センターによると、平成24年度の「墓」に関する相談件数は1,664件。

 グラフを見ていただければ分かる通り、ここ数年の相談件数は、おおよそ1,400件から1,800件の間で推移しています。契約者の平均年齢は、65.4歳。国民生活センターの相談情報部相談第2課の伊藤汐里さんによると、この数字の動きは、たいへん興味深いものであるといいます。

 「高齢者(60歳以上)の割合が多い相談内容としては、ほかに、投資関連、健康食品などの送り付け商法、押し買いのトラブル、などがあります。しかし、このように何年にもわたって、ほぼ同じ件数の相談が寄せられるのは特徴的ですね」

 ここでの「墓」とは、墓石そのものに関することだけではなく、それに関連して「霊園」「石材店」についての相談を含みます。同じく、今回の取材でお話を伺った東京都消費生活総合センターの相談部長である阿部耕治さんは、次のように話します。

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 「お墓の問題は、家族の問題と密接に関わっています。 そのため、以前はお墓の問題というよりも、家族関係についての相談が多かったのです。例えば、父親が墓地を契約してきたが遠い場所だったので解約させたいとか、そういったことですね。 今でもそうした相談はありますが、最近はお墓の価格に関することや、石材店に関する相談が増えています」

 お墓はほとんどの人が一生に一度しか購入しないため、商品知識を得る機会が極端に少ない特殊な買い物です。本誌に掲載中のインタビュー記事『建墓物語』でも、お墓を建てるまで石材店のことなど何ひとつ知らなかったと話す施主の方がほとんどです。

 こうした現状を反映してか、お墓のことはもちろん、民営霊園のシステムについて何も知らず、当番で割り振られた担当石材店と建墓をスタートしたためにトラブルとなったという事例が多く報告されています。 ここでは、この一年間に両センターへ寄せられた相談の中から、いくつかの実例を紹介します。

 

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