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霊園・永代供養墓・堂内陵墓の現在

お墓の承継が難しい時代2

酒本幸祐
※霊園ガイドNo.81号より再録 ※価格などの情報は執筆時のもので現在とは異なる可能性があります。

お墓の承継が難しい時代2

 

 ・カードでお参りする自動搬送式のお墓

 近年、堂内陵墓と呼ばれる屋内型墓所が注目されています。堂内陵墓とは納骨堂の一形態です。従来のロッカー式、仏壇式の納骨堂とは一線を画した、自動搬送タイプの堂内陵墓の開設が首都圏で相次いでいます。テレビの情報番組などで取り上げられる機会も多いので、読者の皆様も目にされたことがあるのではないでしょうか。

 最新式の自動搬送タイプの堂内陵墓とは、施設内に設置された参拝口に専用のカードを読み込ませることで、遺骨を納めた厨子が参拝口に置かれた墓石に自動的にセットされ、お参りができるお墓のことです。墓石は共用で、遺骨を納めた厨子のみが個別のものとなります。

 従来のお墓の形状に類似しているため、通常のお墓参りの感覚で参拝できる、また、屋内であるため、天候を気にすることもなく、お墓の掃除も不要であるといったメリットがあります。お花と焼香用の抹香が参拝口にセッティングされているため、お参りの際にそれらを準備していく必要がない施設もあります。ただし、防災上の理由から、お線香をあげることのできるところは少ないようです。

 こうした堂内陵墓は墓石を建立しないため、万一承継が途絶えて無縁となった場合でも、墓石撤去費用が発生することがありません。そのため、多くの堂内陵墓では承継者がいないご夫婦などでも、契約を拒否されるケースは少ないということです。納めた管理費分の年数が経過した時点で、遺骨を施設内の合祀墓などに合祀することを了承すれば、承継者のいない方であっても、一般の霊園より少ない負担で自分のお墓を持つことができます。墓石は建立せずに、厨子と一体化した石板に名前を刻むので、通常のお墓を建てるよりも費用が安価で済むことも、人気を後押ししています。

 しかし、屋内施設であるがゆえのさまざまな制約については知っておく必要があります。まず、屋外の霊園に比べて電気代や光熱費がかさみ、自動搬送システムのメンテナンスにも費用が掛かるため、一般の霊園よりも管理費が高額になります。数年前に開設したある堂内陵墓を取材したところ、6階建てのその施設では、遺骨の収蔵庫を含めた館内の温度と湿度を適正に保つため、エアコンを24時間付けたままにしておく必要があるとのことでした。エントランスホールには大きな噴水が設置され、開館中は常に水を噴き上げています。それらに使用される電気代は、当然管理費に転嫁されます。

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 堂内陵墓の厨子は7寸の骨壷(直径約22cm)が二つ入るサイズのものが多く使われていますが、年間の管理費は1万数千円から2万円以上のケースがほとんどです。霊園のように墓所面積という概念がないため単純に比較はできませんが、割高な印象は否めません。

 また、施設が開いている時間しかお参りすることができないので、墓参の時間には注意しなければなりません。さらに、駐車場の設備がない施設が多いため、車で訪問することができません。

 前述の通り、遺骨を収蔵する厨子は関東地方で一般に使われる7寸の骨壷が二つ入る大きさが基本になっていますが、納骨することのできる骨壷の数は施設によってばらつきがあります。骨壷のサイズを小さなものに変えて3体まで、遺骨を麻の骨袋に移して4体以上、などです。納骨する遺骨の数が多くなる可能性がある場合は、事前によく確認をしておきましょう。

 建物の耐用年数の問題には特に注意が必要です。堂内陵墓は新しいスタイルの施設なので、最初に建てられたものでも完成からまだ十数年しか経過していません。鉄筋コンクリート製の建造物の耐用年数は、50年とも60年とも言われています。国土交通省が2002年に作成した報告書によると、マンションの平均寿命は46年、建て替え物件の着工時期は築後37年だそうです。人が居住するマンションと堂内陵墓を一概に比較することはできませんが、建造物である以上、いずれ施設の建て替えが必要となることは明らかです。

 そうした時に、堂内陵墓を管理運営する寺院側が責任を持って建て替えをしてくれるのか、その際の費用負担はどうなるのか、施設に納めた遺骨は責任を持って新しい施設に納めてくれるのか……。そういった点については、実際に建て替え時期を迎えた施設がないため、まだ答えが出ていないのが実情です。

 これらの堂内陵墓の中には、利用者が納める毎年の管理費の中から建て替えに必要なお金を積み立て、費用を賄うことを約束している施設もありますが、地震などの外的要因で予想よりも早い時期に建て替えの必要に迫られるケースも考えられます。契約の際には、そうした点についてしっかりと確認しておくことが重要です。

 もしも、建て替えの際に新たに費用を負担しなければならなくなったり、納める遺骨が増えたために新たな契約を結ばなければならなくなったりしたら、長い目で見た場合、結局普通のお墓を建立した方が割安だったということにもなりかねません。

堂内陵墓を検討する際は、収蔵できる骨壷の数をよく確認してください。
お墓という祈りの対象によって、生命のつながりを実感する……

・お墓参りを知らない子供たち

 お墓の承継の問題は、年々その重要度を増しています。後継ぎはいないけれど、祈りの対象としてのお墓を切実に求める人、また、お墓を受け継いだにも関わらず、子供がいないなどの理由でお墓を守っていくことが困難となり、墓所の返還を検討している人……。

 かつては、家族が亡くなったらお墓を建てるのが当然でした。お墓を建てない(建てられない)ことは、恥ずかしいことでした。しかし、世間に対する見栄(世間体)や、恥の文化が薄くなった現代の都市社会では、お墓を重要視しない風潮が生まれ、お墓はいらないという考えを持つ人も増えています。昨年、募集が始まった小平霊園の樹林墓地に、定員の16倍以上の応募があったことがニュースになりましたが、これもそうした風潮が端的に現れた事象と言えます。樹木の下の穴に遺骨を一緒くたに放り込んで土を被せて済ませるなどという葬法は、以前では考えられないものでした。

 本誌「建墓物語」の取材で、建墓を経験された方にインタビューをさせていただいた際、お母様を亡くされたというあるお施主様は、お墓を建てた理由について、「家の墓がないことによって、自分の子供や孫がお墓の大切さを知らないまま成長するのが嫌だった」と話してくれました。お施主様自身は、子供の頃に故郷のお墓をお参りした経験を通して、故人を敬い、生命のつながりを実感したことが、自身の人間形成においてとても貴重な出来事だったと感じたことから、お墓を建てることによって、ご自分の子供達にも同じ想いを伝えていきたいと強く思ったということです。

 春のお彼岸に全国紙が報じたニュースによれば、都会では小学校を卒業する年になっても、お墓参りをしたことがない子供が少なくないといいます。おそらく、ご両親が仏事を重要視しない家庭の子供達なのでしょう。しかし、お墓に手を合わせて、自分のご先祖様や故人を偲ぶという経験をしないまま成長するのは、彼らにとって不幸なことではないでしょうか。自分の命が先人から受け継いだもので、生きているのではなく「生かされている」ことを知った時、人生を切り開く力が湧いてくるのではないでしょうか。

 今回の特集では、承継者がいない時の建墓と、選択肢としての永代供養墓・堂内陵墓について取り上げました。これを読まれた皆様がどのような選択をされるかは自由ですが、ぜひとも親しい人達のために、祈りの対象を残していただければと思います。あなたの墓標に手を合わせた人達が、あなたを偲び、命について実感することができるように……。皆様の建墓が満足いくものとなることを願ってやみません。

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